SBP瀬戸内乳腺事業包括的支援機構

乳がんガイドライン 初期治療 > 薬物

Q 35:再発予防のための薬による治療はどのように決定されるのでしょうか。

  • 回答:薬による治療は、治療薬の効果を予測する因子や再発の危険性を予測する因子、患者さんの全身状態や、閉経前か後かを考慮して決定します。
  • 解説:術後にからだのどこかに潜んでいる細胞を根絶する目的で行われる再発予防の薬物療法の種類としては大きく分けて、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)の3種類があります。
    再発の危険生(リスク)を予測する因子がいくつか知られており、これらを組み合わせて再発リスクが高いとされた人には抗がん剤による治療を行います。
    ホルモン剤と分子標的薬は、がん細胞自体がもっているホルモン剤や分子標的薬に反応する部分を特異的に攻撃するので、患者さんご自身のがんがこれらの性質をもっている場合にのみ使用することになります。
  • コメント:再発をできるだけ避けるため利益が高いと思われる治療については、受けておくことをお勧めします。

Q 36:抗がん剤は何のために使用し、どれくらい効果があるのでしょうか。

  • 回答:
    1)初期治療における抗がん剤治療は、再発率・死亡率を低下させます。
    2)転移・再発治療における抗がん剤治療は、がんを縮小させ、症状を緩和し、QOL(生活の質)を向上させ、延命をもたらすことができます。
  • 解説:乳がんは、周囲リンパ節に転移し、さらに血液やリンパの流れにのって離れた場所(肺、肝臓、骨など)に転移する性質をもち、離れた場所にわずかでも転移し残っていると、後に再発を起こし、再発すると治癒が困難です。抗がん剤は投与されると全身に行き渡りますので、どこかに潜んでいるがん細胞を死滅させるのに効果があり、手術後の抗がん剤治療は再発率、死亡率を低下させます。
    一方、乳がんがみつかった時点で離れた場所に転移している場合や、再発の場合は、がん細胞が体のあちこちに存在している状態ですので、これらを縮小させたり、大きくならないように抑えたり、症状を和らげる目的で抗がん剤を用い、QOLの改善が期待できます。
  • コメント: 新しい薬や治療法も次々と開発されています。その目的や副作用を調べることを目的とした臨床試験や治験に参加されてもよいでしょう。

Q 37: 抗がん剤の種類と用量は決められたように使用しなければいけないのでしょうか。

  • 回答:抗がん剤は、決められた組み合わせで、決められた量を使用することが推奨されます。薬の組み合わせや用量は、臨床試験を通じて最も適切であることが確認されたうえで決定されるからです。
  • 解説:抗がん剤は、それぞれの薬について、最も効果があり、かつ安全に使用できることが確認された組み合わせ、量、回数を用います。抗がん剤は、がん細胞の根絶を目的としているため、できるだけ多くの量を投与することを考えますが、副作用が強すぎると治療が続けられませんので、副作用とのバランスをみて、安全に使用できる投与量を規定されています。
    そして、抗がん剤の実際の投与量は、規定された量がきちんと投与されるために、一人ひとりのからだの大きさに応じて計算します。
    規定された決められた組み合わせ、量および回数を勝手に変更することは、治療効果と副作用のバランスを崩し、最善の治療から離れたものになる可能性があります。
  • コメント:遠隔転移の治療の合では、副作用をなるべく少なくすることを優先しますので、からだの状態や副作用に合わせて投与量や間隔を変更することもあります。

Q 38:抗がん剤にはどのような副作用がありますか。また、予防法や対処法はありますか。

  • 回答:抗がん剤の種類によりさまざまな副作用がありますが、それぞれに対して有効な予防法や対処法があります。副作用の出かたや程度には個人差がありますので、医師・看護師・薬剤師とよく相談してください。
  • 解説:抗がん剤の主な副作用としては、吐き気・嘔吐や脱毛、白血球減少などがあります。これは、抗がん剤が増殖の盛んな細胞を攻撃するため、正常細胞の中でも増殖の盛んな細胞、例えば消化管や髪の毛の細胞、白血球を作っている骨髄が攻撃された結果起きたものです。その他にも、アレルギー、倦怠感(だるさ)、浮腫(むくみ)、口内炎、下痢、爪の異常、関節痛・筋肉痛、心臓への影響、神経への影響などがありますが、それぞれに対して有効な予防法や対処法があります。また、副作用の出方や程度には個人差がありますし、使用する薬剤によっても違ってきますので、医師・看護師・薬剤師とよく相談してください。
  • コメント:副作用ががんに対する効果のバロメーターになるわけではなく、「副作用が出なかったから、がんに対する効果もなかった」とか「副作用が強かったから効果もある」というわけではありません。

Q 39:分子標的薬とは、どんな治療ですか。どんな人が治療をしますか。また、副作用はあるのでしょうか。

  • 回答:分子標的治療は、がん細胞に特有の性質をみつけ、そこを狙い撃ちする治療法で、乳がんではトラスツズマブ(ハーセプチン)という薬が使われています。トラスツズマブは、がんの増殖に必要な物質を取り込む受容体(HER2タンパク)を攻撃することでがんを抑えますので、HER2タンパクをもっている人にのみ効果があります。一般的に副作用は軽いですが、まれに重篤な副作用が起こることがあります。
  • 解説:がん細胞は、旺盛に増殖するのに必要ないろいろな因子をもっており、これらの因子を特定して狙い撃ちすることでがんの増殖を抑える治療を「分子標的治療」、それに用いられる薬を「分子標的治療薬」といいます。
    その因子の1つが「HER2タンパク」です。トラスツズマブはそこを攻撃してがん細胞の増殖を抑える薬ですので、HER2タンパクがある(HER2陽性)患者さんにのみ使用します。
    がん細胞も正常細胞も見さかいなく攻撃する抗がん剤に比べ、分子標的治療薬は、がん細胞だけをピンポイントで狙い撃ちするので、大きな副作用なしにがんを抑える効果が期待できますが、まれに重篤な副作用が起こることもあります。
  • コメント:トラスツズマブ(ハーセプチン)の他、ラパチニブ(タイケルブ)やベバシツズマブ(アバスチン)などの薬剤も開発され、使えるようになってきています。

Q 40:ホルモン剤はなぜ効き、どれくらいの効果があるのでしょうか。

  • 回答:ホルモン剤はからだの中で作られる女性ホルモンであるエストロゲンを減らしたり、乳がん細胞内のエストロゲン受容体とエストロゲンとの結合を邪魔することで、がん細胞の分裂増殖を防ぎます。手術後にホルモン療法を行うことで再発が半分ほどに減ります。
  • 解説:乳がんには、エストロゲン(女性ホルモン)をエサとして増殖するものがあります。乳がんの細胞が「エサを取り込む口」である「ホルモン受容体」をもっている(ホルモン受容体陽性、あるいはホルモン感受性ありといいます)場合、ホルモン療法の対象となります。
    ホルモン剤は、エサである体内のエストロゲンの量を減らしたり、がん細胞がエストロゲンを取り込むのを邪魔したりすることで、がんの増殖を抑え、手術後の初期治療として使用することで、転移や再発が半分ほどに減り、また進行・再発乳がんでは、がんの進行を抑える効果が証明されています。
  • コメント:体内での女性ホルモンの分泌は、閉経前と閉経後で大きく異なるので、薬剤もそれにあったものを使用します。

Q 41:ホルモン剤療法は、何をどれくらい行えばよいのでしょうか。

  • 回答:手術後のホルモン療法としては、閉経前ではLH-RHアゴニスト製剤(2年以上)と抗エストロゲン剤(5年)、閉経前ではアロマターゼ阻害薬(5年)と抗エストロゲン剤を用います。進行・再発乳がんでは、原則として効果がある間は続けます。
  • 解説:術後の患者さんでは、閉経前では、卵巣でのエストロゲン合成を抑えるLH-RHアゴニスト製剤(皮下注射、2~5年)に加えて、抗エストロゲン薬であるタモキシフェン(内服、5年間)を用います。閉経後では、アンドロゲンからエストロゲンをつくる過程で働くアロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害薬(内服、5年間)を用います。
    転移・再発した患者さんには、上記の薬剤を使って効果が続いている限り同じ治療を続け、効果がなくなったら他の治療法に切り替えて使用します。タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬の効果がなくなった時には酢酸メドロキシプロゲステロン(ヒスロンH)を使用します。
  • コメント:さまざまな定義があり、統一された定義はありません。米国のNCCNガイドラインの定義を参考に提示します。
    NCCN閉経定義:
    1. 両側卵巣摘出術施行後
    2. 60歳以上
    3. 年齢が60歳未満で化学療法、タモキシフェン、トレミフェン、卵巣抑制がないにもかかわらず12ヶ月以上に渡って無月経であり、FSHとエストラジオールが閉経後の範囲にあること
    4. 年齢が60歳未満でタモキシフェンまたはトレミフェンを使用している場合は、FSHとエストラジオールが閉経後の範囲にあること

Q 42:ホルモン剤にはどのような副作用がありますか。また、対処法などはありますか。

  • 回答:ホルモン剤の副作用として、ホットフラッシュ、生殖器の症状、関節や骨・筋肉の症状などがでることがあります。それぞれの対処法を参考にし、担当医や看護師、薬剤師に相談しましょう。
  • 解説:ホルモン剤の副作用としては、ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)、生殖器の症状(性器出血、膣分泌物の増加、膣の乾燥、膣炎など)、血栓症、関節や骨・筋肉の症(骨密度低下、関節のこわばりや関節痛みなど)、精神・神経の症状(頭痛、気分が落ち込む、イライラする、やる気が起きない、眠れないなど)の症状が出ることがあります。多くは、ホルモン剤の主な作用である女性ホルモン(エストロゲン)を抑えることによって起こってくる症状です。それぞれに対して対処法がありますし、また、副作用の出方や程度には個人差がありますし、使用する薬剤によっても違ってきますので、医師・看護師・薬剤師とよく相談してください。
  • コメント:更年期症状としてホットフラッシュが出たときにはその対処法として、エストロゲン補充療法を行うことがありますが、乳がん患者さんには、再発を増加させる危険性がありますので行うべきではありません。

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